家族の話

【感動する泣ける話】写真館スタッフの私が、母の写真の裏の言葉で知った愛情

商店街というものは、昼よりも夕方のほうが本当の顔を見せる気がする。八百屋の濡れた床。魚屋の氷の溶ける音。時計屋のショーケースに残る薄い指紋。写真館のガラスに映る、客のいなくなった通りの色。そういうものが、店じまいの気配といっしょに、少しずつ静かになる。私はその静かさが好きだった。賑やかなものは、どうも信用しきれない。笑顔だってそうだ。
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【感動する泣ける話】写真館スタッフの私が、母の写真の裏の言葉で知った愛情

商店街というものは、賑やかな顔をしているくせに、夕方になると急に年老いる。昼間は威勢のいい声が飛び交っていた肉屋の前も、豆腐屋の白い暖簾も、薬局の回転灯も、写真館のガラスに映る七五三の見本も、店じまいの気配が混じるころには、みな少しずつ黙りはじめる。その黙り方が、私は好きだった。派手に終わらないもののほうが、信用できる気がするからだ。私は商店街のはずれにある写真館で働いている。カメラマンではない。
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【感動する泣ける話】葬儀社スタッフの私が、祖母の遺品の封筒で知った祈り

雨の匂いというものは、どうしてああも、人を昔へ引きずり戻すのだろう。濡れたアスファルトの冷たい匂い。古い塀にしみこんだ苔の青臭さ。排水溝にたまった花びらが、泥にまじって少し甘く腐っていく気配。そういうものを吸いこむたび、私は決まって、祖母の家へ続く細い路地を思い出す。町はずれの、車もろくに入れないような、曲がりくねった古い道だった。雨の日に二人で歩くには少し狭く、私が大きくなってからは、祖母がいつも半歩だけ前を歩いた。
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【泣ける短編】祖父が遗京た鍵と交換ノート、桜の下で知った最後の本音

桜というものは、満開のときより、散りはじめてからのほうが胸にこたえる。咲いているあいだは、みんな上を向く。写真を撮る人もいるし、立ち止まって笑う子もいる。けれど花びらが風に押されて、行き場をなくしたように地面へ落ちていくのを見ると、私はなぜだか、言えなかった言葉のことを思い出す。口に出せなかった本音というのは、たいてい、遅れて胸に降ってくる。ちょうど、桜みたいに。
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手紙・留守電・遺された品が胸を打つ泣ける短編まとめ|あとから届く想いの物語たち

人はときどき、その人がいなくなってから、ようやく気持ちを受け取ることがあります。返せなかった手紙。消せなかった未送信の言葉。古い留守電に残っていた声。しおりや便箋や通帳のような、何でもない遺された品。それらは、ただの物ではありません。その人が言えなかったことや、残していったぬくもりを、時間のあとからそっと運んでくるものです。このページでは、手紙・留守電・遺された品をモチーフにした、泣ける短編をまとめました。
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泣ける話 短編|終電後の駅で知った父の見守りと古い定期券

父が死んでから、私は一枚の定期券を捨てられずにいる。  もちろん、もう使えない。  磁気はとうに抜け、角は擦れて白くなり、裏面には指で撫でたような薄い筋がいくつも残っている。  それでも財布のいちばん奥にしまったままなのは、懐かしいからだけではない。
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泣ける話 短編|母のメモに隠れていた最後の気遣いと白いハンカチ

母が死んだあと、私は白いハンカチを一枚だけ捨てられずにいる。  別に高価なものではない。  市立病院の売店で買った、ごくありふれた綿のハンカチだ。  角に、小さな青い花の刺繍がある。  洗うたび、少しずつやわらかくなって、少しずつくたびれていく。  そういう、生活の中で静かに擦れていく種類の布である。
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泣ける話 短編|祖母の伝言メモと切符がくれた最後の救い

祖母が死んだあと、私は古い切符を捨てられずにいる。  財布の内側、透明な小さな仕切りの奥に、それはずっと入ったままだ。  もう色も褪せて、角も少しやわらかくなっていて、駅員に見せたら笑われるだろうと思う。  いまどき紙の切符そのものが珍しいのに、それがさらに、何年も前に廃止された町内循環バスの回数券の切れ端なのだから、なおさらである。
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祖父の留守電を、私は遅れて聞いた

祖父が死んでから、私は腕時計をするようになった。  べつに、時間を大切にする人間になったわけではない。  そういうふうに言うと、少しは殊勝に聞こえるかもしれないが、私はもともと時間にだらしないほうだった。  若いころは遅刻ばかりしていたし、四十を過ぎた今でも、客のいない待機中にはついシートを倒して目を閉じてしまう。
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【泣ける短編】言い方のきつい父と和解した夜|カセットテープに残っていた声

父は、言い方の悪い人だった。 悪い、というのは少し正確ではないかもしれない。 たぶん、思ったより先に口が動いてしまう人だったのだ。 心配すると、怒ったようになる。 照れると、突き放したみたいな声になる。 褒めようとしても、なぜか最後に余計な一言が混ざる。 だから私は、子どものころから父の言葉を、そのまま受け取るのが苦手だった。