家族の話

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【泣ける短編小説】時計修理職人の父と故郷を離れる息子|パンが焼けるまで

「返品」息子はそう言って、私の作った置き時計を食堂の丸テーブルに置いた。真鍮の角は潰れ、裏蓋には小麦粉が入り込んでいる。十年前、二十歳になった息子へ、古い目覚まし時計を組み直して贈ったものだ。「ずいぶん丁寧に使ったものだな」「時計は、粉を食...
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【感動する話】大人向け短編「捨てなかった食卓」

感動する話を読みたい大人へ。離婚から七年後、元妻に呼び出された男が、古い食卓に残された夫婦の時間と向き合うオリジナル短編です。仕事や家事に追われていると、自分の気持ちを確かめる時間さえ失ってしまいます。今回お届けするのは、別れた夫婦が古い食卓を運ぶ、静かな感動短編です。元に戻ることだけが、和解ではありません。大人になったからこそ分かる、終わった関係の中にも残る温かさを描きました。
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『夢を諦めた人の再挑戦|動物保護施設で働く女性と祖母の泣ける短編』

「今日が、最後の勤務なんだよ」祖母はそう言って、保護犬のハルの前脚に包帯を巻いた。診察台の上で、ハルが私の手首を舐めた。大きな体をしているくせに、人が腕を上げるだけで震える犬だった。強そうに見せることばかり覚え、中身が追いついていないところは、私によく似ている。
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タクシー運転手と弟の和解|雨の地図【家族の感動短編】

最後の夜、一本だけ乗らないか〉弟へ送るその一行を、私は三十七分も見つめていた。送信ボタンというものは、押すだけなら子どもにもできる。四十八歳の兄には、なかなか難しかった。営業所は改装のため、翌朝から三か月閉鎖される。車は郊外の仮営業所へ移り、古い休憩室も、煙草の匂いが染みた配車台も、今夜でいったん空になる。東京のホテル本部で旅行手配をしている弟が、研修で帰郷していることは知っていた。最後の日くらい、私が何をしてきたのか見てほしかった。
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離婚を考える夫婦の再出発|片方の手袋を返す夜【感動短編】

「今夜、あの子たちの卒業式をやってくれないか」 班長は、段ボールいっぱいの紙の花を私に押しつけた。 私は町外れのバス会社が共同配送を請け負う倉庫で、夜行バスから降ろされる小口荷物を仕分けている。 昼と夜の間で持ち主を待つ鞄や小包は、いくら眺めても何も語らない。 人間もそれくらい行儀よく黙ってくれればよいのに、と私はよく思う。 卒業するのは、夕方の仕分けを手伝ってきた通信制高校の三人だった。 荷札の読み方も、重い箱を腰で持ち上げることも、三人に教えたのは私だった。
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最後の給食と曲がったスプーン|疎遠な兄との和解を描く感動短編

「兄さん、見に来ないか。最後くらい」そう電話で言ったとき、私は右手で曲がったスプーンを握っていた。柄の途中がくの字に折れ、食べ物をすくえば少しだけ左へこぼす、役立たずのスプーンである。兄と私のようだ、などと考えてから、自分の比喩の安っぽさに嫌気がさした。兄はしばらく黙り、「仕事中だろ」と言った。「だから見てほしいんだ」返事はなかった。ただ、切れる直前に、小さく咳をする音がした。
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【泣ける短編】病気を隠した母が問診票の裏に残した言葉

母が書いた問診票の裏【改稿版】母の病気を知ったのは、私が患者に「痛みを隠さないでください」と説明している最中だった。廊下を通り過ぎた車椅子に、母が乗っていた。頬は痩せ、膝には見覚えのある灰色のひざ掛けが掛かっていた。母は私と目が合うと、叱られた子どものように顔を伏せた。私は病院で理学療法士をしている。人の歩き方を見れば、どこをかばい、どの筋肉が弱っているか、おおよその見当がつく。
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【泣ける短編】亡き祖父が残した最後の靴音

祖父が亡くなったあと、私は病院のリハビリ室で、彼の最後の靴音を聞いた。右足を引きずる音。杖が床をたたく音。苦しそうな息。それから、子どものように弾んだ声。「今日は、三歩じゃ」その録音を聞くまで、私は祖父が私を嫌っているのだと思っていた。私は雪の多い町の総合病院で、看護師をしている。
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【泣ける短編】亡き母が残した「帰りの切符」

母が死んだ翌朝、私は駅の落とし物保管庫で、自分の名前が書かれた荷札を見つけた。《拾得物――帰りの切符》《持ち主――私の息子》母の字だった。切符の日付は、二十四年前。私が故郷を捨てた日である。もっとも、故郷を捨てたなどと言えば、いくらか勇ましく聞こえる。本当は、故郷のほうから捨てられたと思い込み、逃げただけなのだ。
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祖母の財布に残った八十六円

祖母の財布を拾ったのは、閉店前の値引きシールを貼り終えたあとだった。総菜売り場の隅に、茶色い財布が落ちていた。角は白く剝げ、壊れた留め具には赤い糸が巻かれている。見間違えるはずがなかった。祖母の財布だった。中に入っていたのは、十円玉が八枚、一円玉が六枚。合わせて八十六円。