泣ける話 【泣ける短編】働く意味を教えてくれた恩師と灯台管理員
「約束、あさってだぞ」受話器の向こうで佐伯さんが言った。私は灯台の窓にこびりついた塩を爪で掻きながら、何の約束です、と答えた。沈黙が三秒ほどあった。「忘れたなら、いい」人は本当に怒ると声を荒らげない。私は十九の頃から、それを佐伯さんに教わっていた。教員ではない。港町のスーパーの店長で、朝五時から青果を並べ、値札の曲がりを犯罪のように憎んだ人である。私に働き方を教えたから、勝手に先生と呼んでいる。本人は迷惑そうだった。人の顔を見るのがつらいなら海を見ろ、と、灯台の求人に丸をつけたのも佐伯さんである。電話を切ってから、机の引き出しを探した。