泣ける話 【感動する泣ける短編】老人ホームで見つけた恩師のメモと、介護士の継承の物語
老人ホームの朝は、たいてい名札から始まる。更衣室の薄い鏡の前で制服に袖を通し、胸元の透明ケースに名札を差しこむ。高瀬 真一。黒い字で印字されたその四文字を、私は毎朝、少し他人のものみたいに眺める。三十五にもなって、自分の名前がまだ板についていない、というのは情けない話である。けれど介護の仕事は、不思議とそういうところがある。慣れたはずなのに、今日もまた一から自分を差し出すみたいな気持ちになる。介護士になって七年になる。