家族の話 【感動する泣ける短編】祖母の眼鏡と手帳が遺した、小さな希望の物語
商店街の朝は、まだ誰のものでもない顔をしている。魚屋の店先には銀色の鱗がひとつふたつ光り、八百屋は泥のついた大根を並べながら、小さなくしゃみをする。古い薬局のガラス戸には、夜の湿り気がまだ薄く残っていて、その向こうで店主の老人が白衣の袖をまくっている。その通りの真ん中あたりで、私は美容室をやっている。美容室、といっても、洒落た言い方が少し気恥ずかしい。鏡が三枚、椅子が二脚、洗面台はひとつ。木目の色も少し剥げ、壁紙も隅が浮いている。名前は「みつき美容室」。