家族の話

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【泣ける短編】亡き祖父が残した最後の靴音

祖父が亡くなったあと、私は病院のリハビリ室で、彼の最後の靴音を聞いた。右足を引きずる音。杖が床をたたく音。苦しそうな息。それから、子どものように弾んだ声。「今日は、三歩じゃ」その録音を聞くまで、私は祖父が私を嫌っているのだと思っていた。私は雪の多い町の総合病院で、看護師をしている。
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【泣ける短編】亡き母が残した「帰りの切符」

母が死んだ翌朝、私は駅の落とし物保管庫で、自分の名前が書かれた荷札を見つけた。《拾得物――帰りの切符》《持ち主――私の息子》母の字だった。切符の日付は、二十四年前。私が故郷を捨てた日である。もっとも、故郷を捨てたなどと言えば、いくらか勇ましく聞こえる。本当は、故郷のほうから捨てられたと思い込み、逃げただけなのだ。
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祖母の財布に残った八十六円

祖母の財布を拾ったのは、閉店前の値引きシールを貼り終えたあとだった。総菜売り場の隅に、茶色い財布が落ちていた。角は白く剝げ、壊れた留め具には赤い糸が巻かれている。見間違えるはずがなかった。祖母の財布だった。中に入っていたのは、十円玉が八枚、一円玉が六枚。合わせて八十六円。
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終電のあと、母から届いたLINE

母からLINEが届いたのは、終電が出る一時間前だった。「今夜、駅で少し会えませんか」私は画面を伏せた。駅前のコンビニは、終電前だけ、この町でいちばん忙しい場所になる。缶ビールを買う会社員。充電器を探す若者。値引き弁当を二つ抱えた、私によく似た疲れた男。返信する暇がない、と思った。
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【泣ける短編】祖父の遺品に残された通帳|役所職員が受け継いだ本当の財産

祖父が亡くなった朝、私は市役所の福祉窓口で、一人の老人に申請書を返していた。「ここに印鑑が必要です。それから、通帳の写しも添えてください」老人は耳が遠いらしく、私の説明を聞くたびに、何度も顔を近づけた。後ろには順番を待つ人が並んでいた。私は時計を見た。
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【号泣・短編小説】認知症の祖母が「ボロボロのマグカップ」を守り続けた理由

私は、自分の底の浅さを知っている。白衣をまとい、仏のような微笑みを浮かべて老人の背中をさすっていても、腹の底では常に時計の針ばかりを気にしている。他人の下の世話を献身的にこなす心優しい青年。そんな自己陶酔のメッキは、過酷な労働環境の中であっけなく剥がれ落ちていた。私はただ、生活のため、そして社会的な体裁のために、心を持たない自動人形のように立ち回っているに過ぎない。介護士という職業は、私のような底意地の悪い偽善者が、最も就いてはならない仕事だったのかもしれない。勤務先の特別養護老人ホームには、私の実の祖母が入所している。
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【泣ける短編】亡き父のラジオ投稿|漁師の息子を見守り続けた秘密

父が死んだ翌朝、海は、こちらを馬鹿にするように凪いでいた。私は港へ向かう軽トラックの中で、古いラジオをつけた。夜明け前の地域番組では、漁師のために風向きと波の高さが読み上げられる。父は船を降りてからも、毎朝この放送を聴いていた。海へ出ない男が波の数字だけを数えている。私はそれを、臆病者の未練だと思っていた。番組の終わりに、女性司会者が言った。
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【泣ける短編】祖父が写真の裏に残した言葉|商店街の写真館で受け継がれた記憶

祖父が亡くなった日の午後、私は商店街の写真館で、知らない家族の笑顔を修整していた。父親の額の皺を薄くし、泣いていた赤ん坊の口元を、少し笑っているように整える。写真は記憶より正直だと、人は言う。けれど、都合の悪い影を消し、幸福そうな一秒だけを残す点では、どちらもよく似ている。電話を受けた店主が、私の肩へ手を置いた。
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【泣ける短編】亡き母のお守りに込められた祈り|海へ出る漁師を見守った愛

母が倒れた朝、私は沖で網を引いていた。海は薄い鉛色で、波だけが生き物のように船腹を叩いていた。胸元には、前夜に母から渡された青いお守りが入っていた。私は出港前、それを岸壁のごみ箱へ捨てた。ところが船に乗る直前、わざわざ戻って拾った。要らないものほど、捨てたあとで気になる。愛情も、たぶん同じなのだ
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【泣ける短編】父の手紙と止まった腕時計|時計店で受け継がれた家族の時間

父が亡くなった朝も、店じゅうの時計は動いていた。 壁の振り子時計。 柱に掛けた鳩時計。 ガラスケースに並ぶ目覚まし時計。 何十もの針が、父の死など知らぬ顔で、少しずつ先へ進んでいた。 止まっていたのは、店先の大時計だけだ […]