家族の話

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【感動短編】母のきつい言い方の裏にあったもの|雨の傘と手紙がつないだ親子の話

母は、昔から言い方のきつい人だった。 きつい、というより、先に刃だけ出てしまう人だったのかもしれない。 心配しているときほど語気が尖る。 困っているときほど早口になる。 やさしくしたい場面ほど、なぜか命令みたいな口調になる。 私は子どものころから、それが苦手だった。 いや、苦手というのは少し綺麗すぎる。 怖かったのである。
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書店員の私と祖母の約束|図書館としおりがつなぐ泣ける感動短編

祖母は、約束を忘れる人ではなかった。 少なくとも、昔はそうだった。 電車の時間も、回覧板を隣へ回す日も、私の遠足も、母の誕生日も、町内会の掃除も、祖母はたいてい全部覚えていた。 覚えている、というより、世界のほうが祖母の頭のなかできちんと並んでいたのだと思う。 今日は何曜日で、味噌がもう少ないから明日は買いに行って、天気がよければ布団を干して、私が夕方に寄るなら饅頭を半分残しておく。
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【泣ける短編】花屋店員の私が父の写真の裏で知った、本当の気持ち

商店街の朝は、花の匂いより先に水の音がする。 店先のバケツを洗う音。 ホースの先から、まだ冷たい水が勢いよく飛び出して、アスファルトを濡らす音。 切り戻した茎の青い匂い。 私は毎朝、その音と匂いのあいだで、ああ今日も花は黙って売られていくのだ、と思う。 花というのは、少し気の毒だ。
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からっぽの弁当箱

商店街の朝は早い。 早いくせに、どこか寝ぼけている。 魚屋のシャッターが半分だけ上がり、八百屋の親父がまだ青い声で咳をし、うちの弁当屋の前には、昨日の風に飛ばされてきた枯葉が二、三枚、妙な遠慮をして残っている。 私は毎朝、それを箒で集める。 集めながら、この町はずいぶん小さくなった、と思う。 子どもの頃は、もっと大きかった。 大きいというより、出られないものだったのかもしれない。
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手帳の余白

母が老人ホームに入ったのは、秋の終わりだった。 終わり、と書くといかにも何かがきれいに閉じたようだが、実際にはそんなものではない。 雨の続く火曜日の午後、介護タクシーの車輪が濡れた舗道をきい、と鳴らし、私は母の小さな鞄を持ち、母はいつもの茶色い手帳を胸に抱えていただけだった。 人生の節目というものは、案外そのくらいみすぼらしく、静かで、誰にも拍手されない。 私はケアマネジャーだった。
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父の日記を読んだ夜、私は靴に残っていた愛情を知った

病院の廊下には、足音がよく響く。車椅子の小さな振動音。看護師の急いだ靴音。面会に来た家族の、ためらいがちな歩き方。そのなかで理学療法士の足音だけは、少しだけ性格が出るのだと思う。急がせすぎないように、でも立ち止まりすぎないように。患者さんの一歩に、自分の歩幅を合わせる仕事だからだ
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亡き祖母の落とし物タグが、私の勘違いをほどいた夜

雪国の駅というものは、音が少ないくせに、妙に記憶だけは残る。列車のブレーキの軋み。ホームの端で鳴る、鈍い風の音。濡れたマフラーから落ちる雫の音。昔は改札鋏がもっと硬い音を立てていたことまで、私は覚えている。三十八になった今、私はその駅で駅員をしている。