泣ける話 【泣ける短編小説】タクシー運転手と元上司、12年越しの誤解|同じ頁の名前
「同じ行に、お前と俺の名前がある」黒田さんは、埃をかぶった修理台帳を私の胸へ押しつけた。午前五時十二分。坂の下に止めた私のタクシーでは、メーターの緑色の数字だけが律儀に光っていた。六時には、この古い整備工場兼営業所の解体が始まる。昨夜、配車室へ黒田さんから私を指名する電話があった。会社は七年前に車庫を平地へ移し、最後の工場長だった黒田さんも翌年退職して町を離れた。解体業者から連絡を受け、今朝だけ戻ったらしい。