泣ける話

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靴修理職人が見つけた居場所|過去の失敗が反転する泣ける短編小説

安井先生へ。お預けしていた写真を、最後の展示に戻していただけませんか」朝、共同工房の端末に届いた連絡は、別人宛てだった。私は安井ではない。靴修理職人の安西である。一字違いなど小さなものだが、人間一人を別人にするには十分だった。添付された古い写真には、体育館の舞台で踊る少女が写っていた。足元には、赤いリボンのついた白い靴。
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印影ののこる家

叔母のことを、私は長いあいだ嫌いだと思っていた。思っていた、というより、そう決めてしまっていたのだと思う。人は一度だれかを「こういう人間だ」と箱に入れてしまうと、そのあと相手がどんな顔をしても、箱の外へ出してやるのが面倒になる。私はそういう怠慢を、わりに几帳面な顔でやる人間だった。役所に勤めて十二年になる。
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つぎの停留所

母が死んだと聞かされたとき、私はハンドルを握っていた。正確に言えば、「危ないかもしれない」と聞かされたのだが、人はそういうとき、耳に入った言葉を勝手にいちばん悪い形へ変える。私はその瞬間、もう母を失った気でいた。終点まで、あと七つ停留所があった。私はバスを止めるわけにいかなかった。
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血のつながらない娘との和解|傘修理職人の泣ける短編小説

「この部屋、まだ鉛筆の匂いがする」梓は、子ども部屋の戸口に立っていた。紺色のコートの肩で、雪が小さな水滴に変わっていた。東京へ出てから四年、一度も帰ってこなかった。妻から、家を引き払う前に荷物を片づけるよう言われたらしい。妻は新居で荷物を受け取っており、梓が今日戻ることを、私にだけ知らせていなかった。
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引っ越し作業員と元弟子の再会|誰かを信じ直す泣ける短編小説

「お届け物です。先週の便に紛れていたそうで」協力会社の運転手が、ひどくくたびれた紙袋を作業台へ置いた。持ち手は透明テープで何度も巻かれ、底には乾いた泥がこびりついている。先週、同じトラックで運んだ三軒のうち、どこかの忘れ物らしい。事務員が留守番電話を入れていたが、誰も引き取りには来なかった。中身を勝手に確かめるわけにもいかない。捨てることもできない。
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【泣ける短編】母の手帳に残された本音|見間違いから始まった美容師親子の和解

母が私の店に来なくなって、七年が過ぎていた。商店街の端にある美容室「すみれ」は、母が三十年守ってきた店だった。色褪せた看板、赤い回転椅子、冬になると唸る石油ストーブ。私はそれらを古臭いと嫌い、向かいの空き店舗に、白い壁と大きな硝子窓の店を出...
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【泣ける短編】父のハンカチと伝言ミス|クリーニング店に残った小さな希望

父が倒れる前日の夕方、私は一枚の白いハンカチを、処分箱へ投げ入れた。商店街の外れにある「白川クリーニング」は、父が四十年守ってきた店だった。今は私が受付に立っている。継いだ、というほど立派な話ではない。東京の会社を辞め、行く場所をなくして戻っただけだ。敗走にも暖簾があれば、家業に見える。
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【泣ける短編小説】理容師と同級生、山頂で果たした30年ぶりの再会

「吉野さん、小さな大会なんですが、出ていただけませんか」写真館の主人は、そう言って壁の時計を見た。理容組合が開く写真技術大会で、店外で働く理容師の腕を一枚の写真で競う。小さく、逃げ口上の立たない大会だった。今日の午後、山頂の気象観測所で撮影するはずだった理容師が、急に来られなくなったという。「予約は四時までです。そのあとは七五三の家族が来ます」秒針が、乾いた音を立てていた。
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『離婚を考える夫婦の再出発|片方の手袋に託した泣ける短編』

「宮野さん、今年の卒業式を手伝ってもらえませんか」小川先生に頼まれたとき、私は冷蔵倉庫の中で、片方だけの手袋をはめていた。右手には荷物を読み取る端末、左手には直人から借りた紺色の手袋。もう片方は五年前、港町でなくした。返そうにも一枚しかなく、捨てようにも妙に温かい。役に立つのか立たないのか分からないところが、近頃の私たち夫婦によく似ていた。私は町外れの物流倉庫で、夜間の仕分けをしている。働きながら町の夜間教室へ通い、高校の課程を終えたのは五年前だった。
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【泣ける短編】訪問看護師の娘が父から預かった合鍵

父の部屋の鍵を開けたのは、二度ある。一度目は、訪問看護師として。二度目は、娘としてだった。父と再会したのは、築四十年を超えるアパートの玄関だった。私が母の旧姓を名乗っていたため、事業所の誰も、父と私が親子だとは気づかなかった。新規利用者の書類には、慢性心不全、独居、身寄りなし、と記されていた。錆びた外階段を上り、呼び鈴を押した。