泣ける話 置いていかれた時刻
父の腕時計が止まった時刻を、私はまだ知らない。知らないままでいたかったのかもしれない。港町の朝は、いつも少し湿っている。潮の匂いは、洗っても落ちない。黒い礼服の裾にまで、静かにしみ込んでくる。葬儀社に勤めて七年、私は人の最後の支度ばかり覚えて、自分の家のことは少しも分からなくなった。父が死んだのは、二月の終わりだった。
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