泣ける話 「いい顔になったな」の意味を、私は知らなかった。
商店街の朝は、いつだって少し早すぎます。八時前だというのに、魚屋はもう氷を打つ音を響かせ、豆腐屋は白い湯気を吐き、向かいの惣菜屋のおばさんは、まだ半分しか開いていないシャッターの内側で、誰かと笑っています。私はその中を、保育園へ向かうために毎朝歩きます。園に着くころには、もう一日ぶんの気配を吸い込んでしまっている町です。商店街の真ん中あたりに、小さな文房具屋がありました。――ありました、という言い方になるのは、いまはもう店が閉まってしまって、少し傾いた看板だけが残っているからです。