5分で読めるのに泣ける話|静かに心に残る短編

涙の落ちた本と蝋燭 泣ける話

古い商店街の写真館で、母の若い頃の写真を見つけた。

私はその顔を、少しだけ知らなかった。

まだ母になる前の、ひとりの女性の顔だった。

父と出会う前。

私が生まれる前。

その写真の中で、母はまっすぐ前を見て笑っていた。

「きれいですね」

そう言うと、店主の老人は懐かしそうに笑った。

「夢があった人だよ」

その言葉に、私は息をのんだ。

母にも、私の知らない夢があったのだ。

妻になる前。母になる前。

ひとりの人として、叶えたかったものがきっとあった。

家に帰ってから、その話を母にした。

母は少しだけ驚いて、それから笑った。

「そんなの、昔のことよ」

そう言いながらも、声はやさしかった。

私は、なぜか泣きそうになった。

親の人生を、子どもは全部知っている気になってしまう。

でも本当は、その人にも長い時間があって、
誰にも言わなかった夢や、諦めたものがある。

写真の中の母は、
今の母と同じようにやさしくて、
今の母より少しだけ遠かった。

その距離に、私は胸を打たれた。

※本作品はフィクションです


心が疲れているあなたへ

身近な人を、知っているつもりになってしまうことがあります。

でも相手の人生に思いを向けたとき、
やさしさは少し深くなるのかもしれません。


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