祖母の部屋を片付けていたとき、小さなポーチが出てきた。
中には、使いかけの口紅と、小さな鏡と、折りたたまれた紙が入っていた。
紙には、私の名前が書かれていた。
「言えなかったこと」
そう書かれたその紙を開くと、祖母らしい丸い字で、短い文章が並んでいた。
「あなたが来てくれる日は、少しだけ元気になれました」
「何も話さなくても、そばにいてくれて嬉しかったです」
私は、思わず椅子に座り込んだ。
あの頃の私は、仕事に追われていて、
祖母の家に行っても、ろくに会話もできていなかった。
ちゃんとしたことは何もしていないと思っていた。
でも祖母にとっては、
私がそこにいること自体が、意味のあることだったらしい。
人は時々、自分が誰かの役に立っていることに気づけない。
何もできなかったと思い込んでしまう。
けれど本当は、そばにいるだけで救いになることもある。
祖母の部屋には、夕方の光が静かに差していた。
私はその紙を何度も読み返した。
そして、誰にも言えなかった後悔が、少しだけほどけていくのを感じた。
※本作品はフィクションです
心が疲れているあなたへ
「何もできていない」と感じる日があっても、
あなたの存在そのものが、誰かを救っていることがあります。
見えないやさしさは、ちゃんと残っています。
関連記事
・亡き祖母の落とし物タグが、私の勘違いをほどいた夜
・泣ける話を読むと心が軽くなるのはなぜ?
・感動する物語は、なぜ記憶に残るのか


コメント