眠る前になると、昼間は平気だったことまで胸に浮かんでくる。
言いすぎた言葉。
返せなかった連絡。
もう会えない人のこと。
その夜、私は古い留守番電話を再生していた。
母が亡くなってから、一度も聞いていなかったものだった。
「もしもし。仕事終わった? 疲れてるなら、ちゃんと寝るんだよ」
それだけだった。
たったそれだけの言葉なのに、どうしてこんなに胸に刺さるのだろう。
私は、その頃ずっと忙しかった。
母からの電話にも、
「あとでかけ直す」
と言って、そのままにすることが増えていた。
でも母は、責めることをしなかった。
ただ、いつも同じ調子で、
「無理しないでね」
と言ってくれた。
あの声を、もっとちゃんと聞いておけばよかった。
再生が終わった部屋は、やけに静かだった。
窓の外では、風が小さく鳴っていた。
私はスマホを置いて、布団に入った。
涙は止まらなかったけれど、不思議と少しだけ呼吸が楽だった。
やさしい言葉は、人がいなくなったあとも残る。
それは時々、夜の静けさの中で、そっと私を助ける。
※本作品はフィクションです
心が疲れているあなたへ
夜は、心の奥にしまっていたものが浮かびやすい時間です。
もし今、眠る前に苦しくなるなら、
自分を責めるより、やさしい言葉に触れてみてください。
涙のあとに眠れる夜も、きっとあります。


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