駅のホームで、見知らぬ老人が落とした切符を拾った。
「ありがとうございます」
そう言って受け取ったその人は、しばらく私の顔を見てから、ぽつりと言った。
「疲れてますね」
私は驚いて、曖昧に笑った。
そんなこと、初対面の人に言われるとは思わなかった。
「でも、大丈夫。帰る場所がある人は、何度でもやり直せます」
電車が来て、その人は乗り込んだ。
私は何も返せなかった。
たったそれだけのやりとりだった。
名前も知らない。
もう二度と会わないかもしれない。
でも、その一言は、なぜか深く残った。
その頃の私は、仕事で失敗して、自分を責め続けていた。
家に帰っても落ち着けず、
誰にも弱音を吐けなかった。
だから、あの言葉が胸に刺さった。
帰る場所がある人は、何度でもやり直せます。
私はその夜、久しぶりに実家へ電話をかけた。
母は何も聞かずに、
「おかえり」
と言った。
それだけで、涙が出た。
忘れられない言葉は、案外、短い。
でも短いからこそ、心の奥にまっすぐ届くことがある。
※本作品はフィクションです
心が疲れているあなたへ
誰かのたった一言に、救われる夜があります。
言葉は長さではなく、届き方なのかもしれません。
あなたにも、心をゆるめる一言が届きますように。


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