泣ける話 空っぽの鍋を、駅に置いた日
駅員になって三年目の冬、僕は「ルール」の中で息をしていた。改札は止めるな。ホームには入れるな。非常時以外、私情を持ち込むな。それが制服の内側に縫い付けられた戒めみたいで、顔は笑っていても心はいつも少し硬かった。祖母が駅に来るようになったのは、僕がこの駅に配属されてからだ。最初は偶然だと思った。小さな肩、背筋だけは妙にまっすぐで、鍋を抱える姿がやけに目立つ。鍋、と言っても台所のそれじゃない。古いアルミの、取っ手の黒いところだけ擦れて光っている、小さな鍋。毛糸の巾着みたいな布で包んで、いつも胸の前に持っている。