泣ける話

レシートの裏に、母がいた

母とは、長いこと、うまく話せなかった。  仲が悪い、というのとは少し違う。  怒鳴り合ったり、皿を割ったりするような派手な不仲ではない。  ただ、言葉を交わすたびに、見えない針が一本ずつ胸に残る。  そういう、静かでみじめな遠さだった。
泣ける話

母の伝言メモと、返せなかった「ごめん」

母が島へ来ると言い出したとき、私は反対しようとして、やめた。反対できるほど、親孝行な息子ではなかったからである。いや、正確に言えば、反対する資格がない気がしたのだ。三年前、本土での仕事を辞め、逃げるようにこの離島へ渡った。季節だけ働いて、金が少したまったらまたどこかへ行くつもりだった。
泣ける話

鍵の音が変わった日

離島の朝は、潮の匂いより先に鍵の音がする。民宿の廊下を歩くたび、僕の腰のキーホルダーが小さく鳴って、まだ眠っている客室のドアがそれに応えるみたいに黙る。鍵は、島の暮らしそのものだ。風が強い日ほど、よく締めておかないと、扉は勝手に開いてしまう。