家族の話

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【泣ける短編】祖父が遗京た鍵と交換ノート、桜の下で知った最後の本音

桜というものは、満開のときより、散りはじめてからのほうが胸にこたえる。咲いているあいだは、みんな上を向く。写真を撮る人もいるし、立ち止まって笑う子もいる。けれど花びらが風に押されて、行き場をなくしたように地面へ落ちていくのを見ると、私はなぜだか、言えなかった言葉のことを思い出す。口に出せなかった本音というのは、たいてい、遅れて胸に降ってくる。ちょうど、桜みたいに。
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泣ける話 短編|祖母の伝言メモと切符がくれた最後の救い

祖母が死んだあと、私は古い切符を捨てられずにいる。  財布の内側、透明な小さな仕切りの奥に、それはずっと入ったままだ。  もう色も褪せて、角も少しやわらかくなっていて、駅員に見せたら笑われるだろうと思う。  いまどき紙の切符そのものが珍しいのに、それがさらに、何年も前に廃止された町内循環バスの回数券の切れ端なのだから、なおさらである。
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祖父の留守電を、私は遅れて聞いた

祖父が死んでから、私は腕時計をするようになった。  べつに、時間を大切にする人間になったわけではない。  そういうふうに言うと、少しは殊勝に聞こえるかもしれないが、私はもともと時間にだらしないほうだった。  若いころは遅刻ばかりしていたし、四十を過ぎた今でも、客のいない待機中にはついシートを倒して目を閉じてしまう。
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【泣ける短編】言い方のきつい父と和解した夜|カセットテープに残っていた声

父は、言い方の悪い人だった。 悪い、というのは少し正確ではないかもしれない。 たぶん、思ったより先に口が動いてしまう人だったのだ。 心配すると、怒ったようになる。 照れると、突き放したみたいな声になる。 褒めようとしても、なぜか最後に余計な一言が混ざる。 だから私は、子どものころから父の言葉を、そのまま受け取るのが苦手だった。
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塾講師の私が母のメモで知った本当の約束|団地で泣ける感動短編

物語に引き込まれるよう、もし矛盾点や難解な点があれば解消し、追加の要素を加えていただければ幸いです。内容が乏しい場合も追加のエピソードや補足を挿入ください
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小学校教師の私が父の秘密を知った日|名札と卒業文集の泣ける感動短編

父は、秘密を持つのがうまい人だった。 うまい、というのは少し違うかもしれない。 ただ、言わないで済むことは、できるだけ言わずに済ませようとする人だった。 家のことも、仕事のことも、自分の身体のことも、たいてい「たいしたことない」の一言で片づけた。 私はそういう父が、昔から少し苦手だった。
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【感動短編】母のきつい言い方の裏にあったもの|雨の傘と手紙がつないだ親子の話

母は、昔から言い方のきつい人だった。 きつい、というより、先に刃だけ出てしまう人だったのかもしれない。 心配しているときほど語気が尖る。 困っているときほど早口になる。 やさしくしたい場面ほど、なぜか命令みたいな口調になる。 私は子どものころから、それが苦手だった。 いや、苦手というのは少し綺麗すぎる。 怖かったのである。
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からっぽの弁当箱

商店街の朝は早い。 早いくせに、どこか寝ぼけている。 魚屋のシャッターが半分だけ上がり、八百屋の親父がまだ青い声で咳をし、うちの弁当屋の前には、昨日の風に飛ばされてきた枯葉が二、三枚、妙な遠慮をして残っている。 私は毎朝、それを箒で集める。 集めながら、この町はずいぶん小さくなった、と思う。 子どもの頃は、もっと大きかった。 大きいというより、出られないものだったのかもしれない。
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父の日記を読んだ夜、私は靴に残っていた愛情を知った

病院の廊下には、足音がよく響く。車椅子の小さな振動音。看護師の急いだ靴音。面会に来た家族の、ためらいがちな歩き方。そのなかで理学療法士の足音だけは、少しだけ性格が出るのだと思う。急がせすぎないように、でも立ち止まりすぎないように。患者さんの一歩に、自分の歩幅を合わせる仕事だからだ
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亡き祖母の落とし物タグが、私の勘違いをほどいた夜

雪国の駅というものは、音が少ないくせに、妙に記憶だけは残る。列車のブレーキの軋み。ホームの端で鳴る、鈍い風の音。濡れたマフラーから落ちる雫の音。昔は改札鋏がもっと硬い音を立てていたことまで、私は覚えている。三十八になった今、私はその駅で駅員をしている。